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と云つた。
相手はさつきから黙つて、房一と徳次の様子を眺めていた。さすがに気が立つているらしく、節くれだつた手首を食台の上でこねるやうに動かしていた。そして、徳次よりもはるかに手答へのあるらしいこの男が何者か見究みきはめようとして、どこか気を配つた様子だつた。
「途中から帰つて来たんだよ」
房一の竿に最初のやつが掛つた。
と、房一は机の上に虫の卵の形を書いてみせた。
房一の老父、道平が二三日前に倒れたのだつた。そして、今、練吉に対診を求めて来たのである。
「さうだよ、ジョン」
「何かの、いつたいあの山を掘つても引合ふのかな」
と、加藤巡査はくり返した。
しかしまた一方から考えると、今日の一般浴客が無遠慮になるというのも、所詮は一夜泊りのたぐいが多く、浴客同士のあいだに何の親しみもないからであろう。殊に東京近傍の温泉場は一泊または日帰りの客が多く、大きい革包かばんや行李こうりをさげて乗込んでくるから、せめて三日や四日は滞在するのかと思うと、きょう来て明日はもう立ち去るのがいくらもある。こうなると、温泉宿も普通の旅館と同様で、文字通りの温泉旅館であるから、それに対して昔の湯治場気分などを求めるのは、頭から間違っているかも知れない。
「や、皆さんどうも遅くなりまして――」
「徳さん。追鮎は君のといつしよに活かしといてもらはうか――どつこいしよ」